【川崎大師】「街の縁側」で人と人をつなぐ。「どまりば」奥貫結さんが目指す、地域の居場所
京急大師線・東門前駅から徒歩約6分。住宅街を歩いていると、縁側スペースでコーヒーを片手に談笑する人や、親子でゆったりと過ごす人の姿が見えてきます。
ここは、テイクアウト専門のカフェと、会員制のコミュニティースペースを備えた地域の拠点「どまりば」。運営するのは、地域活動を行う一般社団法人大師ONE博です。

迎えてくれたのは、大師ONE博の代表を務める奥貫結さんと同団体メンバー。川崎区で子育てをしながら、地域の人たちが気軽につながり、「やってみたい」を形にできる場所づくりに取り組んでいます。
「ここは、誰かに会いたい時も、一人で少し休みたい時も、気軽に立ち寄れる場所でありたいんです」
そう穏やかに話す奥貫さんですが、この場所が生まれるまでには、自身の子育て経験や地域との出会いが大きく影響していました。
「地域のために使ってほしい」その一言が始まりだった

どまりばの舞台となったのは、一軒の元畳店です。
建物のオーナーには、駐車場などへの活用を勧める話もあったそうです。
しかしオーナーが望んだのは、「地域のために使ってほしい」ということでした。
その相談を受けた大師ONE博は、「まずは自分たちがこのまちでチャレンジする、そして、一緒にチャレンジする仲間を集めるための拠点を作ろう」と、この建物を活用することを決めます。
どまりばでは、地域で何か活動したい、誰かと一緒に何かを始めたいという人に集まってもらうため、「どまメン(どまりばメンバー)」と呼ばれる有償会員制を取り入れています。
その理由は、どまりばを単なるレンタルスペースではなく、そこに集まる人たちが一緒に場所をつくり、活動を育てていく場にしたいと考えたから。会員には、施設を利用するだけでなく、運営やルール、設備についても意見を出してもらいながら、一緒にどまりばをつくっていく存在になってもらっています。
会員同士や運営する大師ONE博と想いを共有しながら、それぞれの活動を持ち寄り、ときには協力し合う。そうした関係性の中で、どまりばならではのコミュニティが少しずつ育まれています。
また、活動を続けていくためには、場所を長く維持していくことも大切。そのための仕組みとしても、会員制という形を選びました。

一方で、どまりばを「会員だけの場所」にしたいわけではありません。会員が中心となって場所を育てながら、会員ではない人も気軽に足を運び、誰かと出会ったり、新しい活動につながったりするきっかけをつくりたいと考えています 。
「イベントの日だけ人が集まるのではなく、普段から誰かがいて、地域の情報や仕事、育児などの相談も自然と集まる場所にしたいと思いました」と奥貫さん。
施設名の「どまりば」は、「土間」と「たまり場」を掛け合わせた名前です。
昔の家の土間のように、近所の人が気軽に立ち寄り、おしゃべりを楽しむ玄関口のような存在になってほしいという願いが込められています。
カフェがあるから、目的がなくても来られる

どまりばには、テイクアウト専門のカフェがあります。
実は、この建物のオーナー夫妻も、以前からカフェを開きたいという思いを持っていたのだそう。
「結果的に、オーナーさんが思い描いていたことと、私たちがつくりたかった場所が重なったんです」
そうして、どまりばに、誰でも立ち寄れるカフェが生まれました。
コーヒーを買うだけなら、特別な用事がなくても立ち寄れます。そこから「ここでは何をしているんだろう?」と、どまりばを知るきっかけにもなります。
「まずはカフェを利用して、そこから『ここ、何をやっているんだろう?』って知ってもらえたらいい。最初からイベントに参加しなくてもいいんです」
「どまりば」という名前の通り、ここは何かを始めるためだけではなく、ふらりと立ち止まれる場所でもあります。
地域みんなでつくった「どまりば」

建物のリノベーションにも、多くの地域の人たちが関わりました。
1階のデザインは明治大学の学生が担当し、地域の工務店や花屋など地域の事業者も協力。さらに、地域の子どもたちも壁塗りなどのDIYに参加しました。
「子どもたちには最初から関わってもらいたかったんです」
そう話す奥貫さん。

「自分が子どもの頃に作った場所って、大人になっても忘れないと思うんです。『ここ、自分が壁を塗ったんだよ』って、いつか子どもが大人になって帰ってきてくれたらうれしいですね」
そのため、壁には子どもたちが描いた跡や塗装のムラも、あえてそのまま残されています。
「きれいに仕上げることよりも、この場所で過ごした時間や思い出を大切にしたかったんです」

2階は建物のオーナーが好きだったというパリの雰囲気を残しながらリノベーション。落ち着いた空間には授乳スペースやおむつ替えスペースも設けられ、子育て世代が安心して利用できる工夫が施されています。
「やってみたい」が自然と動き出す場所

どまりばの会員「どまメン」は、活動テーマも背景も異なる個性豊かなメンバーです。
「特別なスキルが必要なわけではありません。地域をもっと良くしたいという気持ちがあれば、それだけで十分です」
会社員やデザイナー、ヨガ講師、カメラマンなど、本業はさまざま。それぞれが得意なことを持ち寄り、イベントを企画しています。
これまでに、レコード鑑賞会、着付け教室、ヨガ・ピラティス、縁側体操、キッズフォト撮影会、工作教室などが行われてきました。
中でも月一回開催している親子向けイベント「どまっこひろば」では、工作や缶バッジづくり、子ども服のお譲り会などを通して、親子同士の交流が生まれています。
参加者として訪れた人が、やがてイベントを企画する側になることも少なくありません。
「大人も子どもも、”わんぱく”でいてほしいんです。『やってみたい』と思ったことに挑戦できる場所でありたいですね」
人が集まることで、心が少し軽くなる

大師ONE博メンバーであるカフェの店長に、印象に残っている出来事を尋ねると、一つのエピソードを話してくれました。
「レコード鑑賞会に、亡くなられたご主人のレコードを持ってきてくださった方がいたんです。」
思い出が詰まったレコードは、一人ではなかなか聴くことができなかったそうです。
しかし、どまりばでみんなと一緒に音楽を聴いた帰り際、その方は「今日は本当に楽しかった」と笑顔で帰っていかれたそう。
「一人では悲しい思い出だったものが、みんなで共有することで温かい思い出に変わったんです。人が集まる場所には、人の心を少し軽くする力があるんだなと感じました。」と話してくれました。
また、遠方から川崎へ移住してきた大師ONE博メンバーから、「どまりばがあったから、この街で暮らしていこうと思えた」という言葉も。
「街の縁側」として、これからも

活動を続ける中で、地域とのつながりは少しずつ深まり、1周年イベントでは道路を活用した「100人アート」や「100人ファッションショー」など、多くの人が参加する催しを開催。今では子どもたちが気軽に声をかけてくれるなど、地域に根付いた存在になりつつあります。
今後は、地域の施設や団体とも連携しながら、地域の情報が集まる「街のコンシェルジュ」のような役割も担っていきたいと考えています。
「子育て世代だけではなく、高齢者にも、地域で働く人にも来てもらいたい。世代を超えて自然につながれる場所にしていきたいですね。」

最後に、「どまりばを一言で表すなら?」と尋ねると、奥貫さんは少し考えてから笑顔で答えてくれました。
「『街の縁側』ですね。そして、誰にとっても『第二の実家』のような場所になれたらうれしいです」
気軽に立ち寄り、誰かと出会い、新しいことに挑戦してみる。そんな小さな一歩が、この場所から今日も生まれています。
川崎大師の住宅街にたたずむ「どまりば」は、人と地域をゆるやかにつなぎながら、この街の未来を育てる”秘密基地”として、温かな時間を紡いでいました。
テイクアウト専門 どまりばカフェ
▪️ 住所:〒210-0816 神奈川県川崎市川崎区大師町16−10
▪️ 営業時間:10:00〜16:00
▪️定休日:不定休
▪️ アクセス:京急大師線「東門前駅」から徒歩6分
▪️ WEBサイト:https://daishi-onepark.net/domaliba
▪️ Instagram:https://www.instagram.com/domaliba.onepark/?hl=ja
取材日 2026/06/29
※本記事に掲載されている情報は取材当時のものです。最新の情報とは異なる場合がありますので、お出かけの際は事前にご確認ください。
Weavee地域ライター/いとうきき